BLITZ BOYS〜闘志〜
始まりは些細な出来事だったに違いない。
道草を食っている暇は無いことは十分判っている。

 ・・・でも、ビサイド・オーラカのみんなの悔しそうな顔が、俺を呼んだんだ。
とても、放っては置けなかった。
 
力になりたいって、思ったんだ。
自分の心の整理の為にも。

「ね、お願い。助けてあげて」
ユウナの整った顔が目の前にある。
その無邪気な瞳が、真っ直ぐにティーダを見つめていた。
「判ってる。自分だって助けたいって思ってることに変わりは無いんだ・・・」
「私の・・・旅のせい?」

大都市ルカのホテルの一室。
上層部だけあって、開け放たれた窓からは海の香りがした。
爽やかなその雰囲気とは対照的に、ティーダの心は困惑していた。
 
他のチームにけなされ、泣いていたキッパを見つけたのは丁度昨日の今頃だった。
『たまには休息も必要だ』
とアーロンが言った。
だから、少しだけ休もうと、想い出の詰まったルカに足を運んだのだ。

ビサイド・オーラカのロッカールームへ続く廊下で、キッパは泣いていた。
真っ先に気付いて、駆け寄ったのはワッカ。
言うまでも無く、ルールーもキマリもアーロンもユウナもみんな駆け寄った。

「ううう・・・」
悔しそうなその顔は、今も忘れられない。
「キッパ!! どうしたんだ!?」
ワッカの声は弾んでいた。
キッパは、ワッカと他のみんなに気付くと驚きの表情を浮かべ、そして泣き叫んだ。
「ワッカさん・・・ティーダさんも・・・うう・・・俺、俺・・・」
「泣いてちゃわかんないッス」
ティーダも訳の判らないといった表情だ。
 
泣いていて良く聞き取れない部分もあったが、大体はこんなところだった。

ティーダたちがエボンカップに出場し、準優勝を獲得してすぐは、オーラカは
一躍人気チームの仲間入りをしていたのだ。
しかしティーダたちが究極召喚を求める旅に出発してしまうと、オーラカはまた
もとの弱小チームに戻ってしまったという。

リーグ戦対戦成績は23戦23敗。
観客にはブーイングを受け、他のチームには馬鹿にされる。
毎日が地獄だという。ブリッツが楽しくないという。

それが、ティーダの胸を強く打った。

だから今こうしてこの先どうするか考えている。
ユウナという考える原因を前にして。

「決まったか」

アーロンが入ってきた。
年齢を感じさせない存在感が部屋に満ちる。
「・・・やっぱり、ここでこうしていても始まらないよ。旅を続けよう」
心にもない台詞を口にしている自分がたまらなく歯がゆかった。
自分の心の奥底にしまい込んだ本音を言うことが出来ない悔しさをティーダは噛み締める。
「そうか。ならばすぐに出発だ。一日無駄にしたのだからな。もう一秒も無駄に出来ん」
「え・・・」
「アーロンさん!」
ユウナが口をはさんだ。
自分のせいでオーラカの人たちを救えないのなら、これ程嫌なことは無い。
「私のことならいいんです。それより、ビサイド島の人たちを救えないなんて・・・」
「究極召喚を手にすれば、一気に救えるのだぞ? 何千何万という人々を」
冷静で、とても的確なことをアーロンは言っている。
それが判っているから余計、悔しさを感じずにいられない。

「ユウナ、旅を続けよう。それがオーラカの勇気にも繋がるはずだ」
ティーダはこう、自分にも言い聞かせた。

ワッカも同じようなことで悩んでいた。
人生そのもののブリッツボールが楽しくないなんて、そんな悲しいことは無い。

ましてやそれがホームチームのビサイド・オーラカのメンバーの言ったことなのだ。
かつてはともに汗を流し、弱くても楽しかった練習。
楽しくないなんて感じたことは微塵も無かった。
何とかして助けてやりたいとは思う。だが今は大事な旅の途中なのだ。
世界を救うという、究極の旅。

しかしそれとブリッツとを天秤に掛ければ、やはりワッカはブリッツを選ぶだろう。
だがそれは個人の考えであって、ユウナの旅を妨げる考えに他ならない。

だからワッカは、ティーダが旅を続けると言ったとき、何も言わず、了解したのだった。

「・・・」
ルカの郊外、ミヘン街道前まで来た。
口を開く者はいない。

 「・・・これで、良かったんだよな」

ティーダは後ろを振り向く。
巨大なルカ・スタジアムが視界に入り、美しい町並みが拡がっている。
 
あそこでは俺の一番好きなことをやっているのに、それを楽しくないって言う奴が、
楽しくない試合をして、楽しくない練習をしてる・・・。
 いいのか?
これで本当に良かったのか?
旅を・・・続けられるのか?
こんな気持ちで、こんな迷いだらけの心で・・・?

「・・・」
ティーダの真横。
 ユウナは静かに見つめていた。
本当の気持ちくらいすぐに読めた。本当は行きたくてしょうがないんだ。
この人は気持ちを殺してしまっている。
そう思うと、胸がとても痛んだ。
私は、彼から生きがいを奪ってまで究極召喚を手に入れようとは思っていないのに。

「くっ・・・」
ティーダは本当に悔しそうだった。
まるで故郷のザナルカンドでも見るようにルカの町並みを見下ろしている。

ふと、何処からか丸い球状の物体が転がってきた。
良く見なくても、ティーダには判る。
それが何だったのか。
 
小さな少年が転がしてしまったブリッツボールを、ティーダの眼は凝視した。
その瞳が急速に輝きを増す。
鼓動の高鳴りを感じる。
満員の観客席を感じる。
大歓声を感じる。
ボールの感触を感じる。

「くっそおおお!!!!」

ティーダはありったけの力を込めてそのボールを蹴った。
恰も彗星の如く、生き物のような生気を得たボールは、空高く舞い上がった。
コンパスが円を描くように、ボールは弧を描き、そしてティーダの手に戻る。

「みんな、ゴメン!! やっぱり俺、ほっとけない!!!!!!」
さっきとはまるで違った、生き生きとした表情のティーダを見て、ルールーが静かに言う。
「・・・ふう、しょうがないコね。行きなさいよ」
アーロンがあきれたように言う。
「当たり前だ。そんな気持ちのままで務まるほど、ガードは甘くない」
「アーロン・・・」
「行け。行って気持ちをすっきりさせて来い。それが出来ないうちは、出発は無理だ」
「・・・」
キマリは黙って見つめる。

ティーダはユウナに向き直り、申し訳なさそうに言った。
「ユウナ、ゴメンな。俺のわがままで旅を遅らせちまって・・・」
「ううん、いいの。私にブリッツボールしてるとこ見せて!!
前は全然見られなかったもの。キミのスピラデビュー、見せてね!!」
「もちろんッス!!」
ティーダにいつもの陽気さが戻った。
そう、それはティーダ(太陽)のような明るさ。皆を照らす、久遠の輝き。

「ワッカ!! 行くぞお!!」
「待ってましたああ!!」

多分に、一番こうなることを熱望していたのはワッカだろう。
彼はブリッツこそ全てだ。
チームメイトこそ、全てだ。

こうして今日、ビサイド・オーラカに二人の新メンバーが加入した。
オーラカの未来を担う、期待の星。






『ティーダ』

所属チーム=ビサイド・オーラカ
ポジション=FW
契約金=一試合1000ギル

『ワッカ』

所属チーム=ビサイド・オーラカ
ポジション=FW
契約金=一試合1ギル




次の日からは、猛特訓が始まった。
殆どの選手の能力は平均かそれ以下だった。
ティーダはまず、基礎体力をつける為に、ランニングからウエイトトレーニングまで、
様々な訓練を行った。

ワッカは主将としてチームをまとめ、ティーダの練習内容を忠実に伝えた。
ビサイド・オーラカのメンバーは燃えた。
今までに無い本格的なトレーニングと本物のコーチを迎え、異常な頑張りを見せた。

中でもキッパ(KP)の成長振りは眼を見張るものがあった。
強豪ぞろいのザナルカンド・エイブスのエースだったティーダも、こんな成長の早い
選手は初めてだった。

「こりゃあ・・・もしかしたら・・・」
ティーダに、一筋の光明が射した。
「いける・・・よな?」
ワッカも乗り気だ。
「ああ、冗談でも何でもない。優勝が狙える!!」

二人は本気だった。
勿論、遊びで出来るほどブリッツボールは甘くない。
『水中格闘技』の異名の通り、スフィアプールと呼ばれる球状のプールで繰り広げられる
戦いは、激しい接触を伴い、怪我人も続出する危険な競技なのである。
ここで大まかなブリッツボールの大会を紹介しよう。

『エボンカップ』
ブリッツシーズン開幕と同時に開催されるシーズン最初にして最大の大会だ。
世界中のブリッツフリークがこの大会の為にルカに集まる。
寺院公認の大会であるから、嫌われ者のアルベド族も分け隔てなく参加している。

『スピラカップ』
隔週、隔月ごとに開かれるトーナメント形式の大会で、
普段の練習成果や、ルーキーのデビュー戦が専ら中心だ。
スピラカップにはリーグ戦も存在し、全6チームが優勝を争う。
スピラナンバーワンを決めるプレイオフも、このリーグ戦によって決定する。

ティーダたちが参加をするのはこのスピラカップのトーナメント戦。
今まで一回戦から先に進んだことはない。
その不名誉な歴史を見事雪ぐことが出来るか。

だからティーダとワッカは本気だったのだ。

「上手いぞジャッシュ!! その調子だ!!」
ワッカはジャッシュ(DF)を見ている。
さて、自分はどうしようかと、ティーダは周りを見渡した。
「ティーダさん」
後ろから声を掛けられて、ティーダは振り返った。
「ああ、なんだい? キッパ」
この所成長が著しいキッパがティーダを呼んだ。
「シュート、打ってもらえませんか?」
「シュート?」
「はい。ティーダさんのシュート、止めてみたいです!」

これが数日前は泣きべそをかいていた男の顔かと、ティーダは思った。
驚くほど生き生きして、心からブリッツボールを好きなんだなと、ティーダは思った。

「言ったな? 止められるかい?」
にやっと、笑う。
「止めて見せます」
こちらも微笑む。
二人は向き合い、お互いに礼をした。
俺が新人のときも、この逆のことを先輩のキーパーにお願いしたな。
とティーダは思った。

第24節 スピラカップ争奪トーナメント選手権

「よし。みんな、汗はかいたか?」
ティーダは控え室を見渡す。
以前とは比べ物にならないほど逞しくなったビサイド・オーラカがそこにいた。
「いいみたいだな。コンディションはどうだ? 体調悪い奴いないよな?」
全員が頷く。
今日のオーラカは最高だ。
「・・・それじゃあオーダーを発表するぞ」

スタメンの発表。
チーム全体が息を呑む。
「まずフォワード」
ちょっと間を置いた。

「ダット」

「よっしゃあ!!」
ダット(FW)は声を上げて喜んだ。
負け続け、もう試合はしたくないと言っていた数日前とはえらい違いだ。
「それと・・・ワッカ」

「おうよ!!」
キャプテンとしてチームを率いる司令塔のワッカは、外せないところだろう。
「次にミッドフィルダー」
このポジションは一名だ。
誰が選ばれるかは微妙だった。
「・・・レッティ、頼んだぞ」

「任せとけ!!」
レッティ(MF)は足技が苦手で、その分パスの練習を誰よりも多くやってきた。
パスはブリッツの命。
そのその責任は、重大だ。
「よし、次はディフェンダーだ」
ティーダは続けざまに二人を指名した。
「ジャッシュにボッツ。守りとカウンターはお前らにかかってるぞ!」

「よーし!」
「ゴーーールは死守する!!!」
そして最後にあの男。
「キーパーは・・・お前しかいない、キッパ!」

「ウッス!!」
この数日でもっとも成長した男。
ティーダも一目置いている。
しかしキッパがあることに気付いた。

「あの・・・ティーダさんは・・・?」
ああ、そうだというふうに、チームがティーダを見る。

「俺? 俺は助っ人兼秘密兵器だからさ、今日の相手のチーム程度じゃあ出れないッス」
「相手は?」
ボッツ(DF)が尋ねる。
「キーリカ・ビースト。同じ条件で練習した、俺たちと似たようなチームだよ」
全員頷く。
「大丈夫。勝てるさ。今までやってきたことを思い出してみろ、絶対負けやしないさ」
ティーダは笑う。
余裕にも似た雰囲気が、その周りには確認出来た。

「それによお・・・」
唐突にワッカが言った。
「俺たちの目標はあくまでも優勝だ。キーリカくらいにてこずってコイツの手を煩わす
ようじゃあ、優勝なんて出来ねえよ・・・な?」
「・・・ああ。まあそんなとこだ」

ティーダはもう一度、オーラカを見渡した。
「・・・勝つぞ」
「オオ!!!!!!!!!!!」

ときの声は、廊下にも十分響いた。
ビサイド・オーラカの闘志を象徴するかのように・・・。




    To be next......
ワイティー
2001年11月20日(火) 23時21分54秒 公開
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この作品の感想です。
男のロマンって感じだ(笑  上手い!! ガイツ ■2001年12月23日(日) 10時55分35秒
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